– まず、「フリースクール・S」の開校までの経緯や成り立ちについて教えてください。
もともとは30年ほど前に、「阪本進学教室」という学習塾から始まりました。鳥取県中部の北栄町にて塾を運営しているうちに、「学校に行けない子どもを日中見てもらえませんか」という保護者の方からの相談を受けるようになりました。その頃、「教育機会確保法」ができたこともあり、せっかくの機会だからとフリースクールを立ち上げることにしたのが始まりです。最初は塾としての学習支援が中心でしたが、全国的にもフリースクールや学校以外の子ども達の居場所が増えてきていた時期で、保護者の方々からのご要望も増えていたため「とにかく始めてみよう」と開校を決めました。

– 鳥取県内ではフリースクールの先駆けのような存在だったのですね。
思考錯誤を重ねながらでしたが、新聞に「フリースクールを開校します」と掲載したところ、すぐに一人の男の子が来てくれました。「こういう場所を探していました」と言ってくれたのを覚えています。その子は当時小学生だったのですが、今ではもう20歳を過ぎていますね。当時は勉強をするというよりも、代表の阪本が一緒に外でザリガニを捕ったり、散歩をしたり、トランプをしたりと、のびのび過ごす感じでした。町内を代表と生徒が歩いていると、地域の方からは「お孫さんですか」と声をかけられることもありました。そんな形で始まりましたが、そこから生徒が少しずつ増えていきました。
– 生徒が増えるにつれて、何か変化はありましたか?
子どもが増えてくると、子ども同士の関わりが生まれスクールの雰囲気も変わってきました。今では「阪本進学教室」の講師だけでなく、隣接する学校法人中央高等学園専修学校(以下中央高等学園)の先生方も一緒になって、フリースクール・Sに通う子どもたちを支えるという環境が整いました。 ただ、保護者にとって大きな障害は費用の件でした。「通わせたいけど月謝の負担が大きくて」という声も聞かれるようになり、何とかしなければ、と代表が行政への働きかけに動きました。まずは地元の北栄町から。最初は半額、翌年には全額補助(実質無料)にしていだきました。これにより、保護者のハードルはずいぶんと軽くなり、不登校の子どもたちの居場所としての選択肢の幅が広がりました。
– 現在の「フリースクール・S」の活動には、どんな特徴がありますか?
私たちの特徴は、「勉強したいけれど学校には行けない」と感じている子どもたちの居場所をつくることを目的にしている点です。学習塾を母体としているので、午前中は基礎学習の時間、午後は交流の時間としています。みんなでゲームをしたり、図書館や体育館に行ったり、神社や海、公園など地域のいろいろな場所にもよく出かけます。北栄町の方々がとても親切で協力的で、体育館も無償で使わせていただいています。社会福祉協議会や地域おこし協力隊の方々とも連携があり、ボランティア活動にも参加しています。最近では、高齢者の方と一緒に食事を作り、交流を深める活動もしました。中央高等学園が近いのも大きな魅力です。高校生たちは子どもたちの良いお手本になり、進路を身近に感じられるようになります。通学電車や体育館なども共用していて、一緒に校外学習を行うこともあります。文化祭では、フリースクール・Sの生徒たちが自分たちで屋台を企画し、値段や仕入れも自分たちで決めて運営しています。
–「フリースクール・S」に在籍していた生徒の皆さんは、どのような進路を選んでいるのでしょう?
卒業後は、隣接する中央高等学園に進学する生徒も多いです。昨年度の中学3年生は全員が高校進学を希望し、全員が志望校合格を果たしました。隣接の中央高等学園や、他の県内私立高校、広域性の通信制高校を選ぶ子もいます。進学先のイメージが持てることで、子どもも保護者も安心できるようです。

– 地域密着型で地域の方々との交流も多く、小学生から高校生まで長期間にわたり子ども達をサポートしていらっしゃるのですね。
はい、私たちの強みは長期的な関わりができることです。子どもたち一人ひとりの成長を見守り、家庭とも信頼関係を築きながら支援を続けています。
最近は、「勉強したいけれど学校に行けない」「家にこもっているので人との関わりを持たせたい」といった相談が増えています。すでに不登校の子もいれば、まだ在籍中だけど通えなくなりそうという相談もあります。そのような悩みを抱えていらっしゃる保護者の皆さんへの相談や支援にも力を入れています。毎月のおたよりや電話連絡、個別面談に加え、子ども達が在籍している各学校との話し合いに同行することもあります。家庭によって事情はさまざまなので、柔軟に対応するよう心がけています。
– 山本さんは、どのような経緯で「フリースクール・S」に関わるようになったのですか?
私は、もともと教育教材の出版社で働いていました。その出版社が提供している教材で学習している子ども達と電話で話す中で、「学校に行っていない」という声をよく聞くようになったのがきっかけで、不登校状態にある子ども達へのサポートに意識が向くようになりました。その後、北栄町で通信制高校を立ち上げるという話題を知り、京都から鳥取へ移住して立ち上げから関わるようになりました。それからもう20年ほどになります。

–「フリースクール・S」の運営母体である阪本進学教室が開校した通信制高校(現在、学校法人中央高等学園)について、教えていただけますか?
中央高等学園には、義務教育時代に学校に行きづらかった生徒や、少人数が過ごしやすい生徒、他高校からの転校生もいます。1学年1クラスなので、生徒も教師もお互いの個性や長所短所をよく理解できる環境です。高校で教えている先生達がフリースクールの活動にも関わっているため、フリースクールから進学してきた子どもたちは安心感を持って過ごすことができています。中央高等学園には部活の代わりにユニークな選択コースがあります。eスポーツコース、筋トレコース、特進コース、PIZZAコースなど、子どもたちが興味を持てる内容がたくさんあります。ピザに関しては、令和6年度の卒業制作として生徒とともにピザ窯を作りました。そして、それを活かすために、在校生がピザの生地から手作りし、イベント時に焼いて販売しています。生徒が楽しみながら学べる環境だと思っています。
– いま現在、学校に行きにくいと感じている子ども達やその保護者の皆さんに、伝えたいことはありますか?
フリースクール・Sができて10年ほどが経ちました。少しずつ地域の理解も広まり、「不登校」という選択肢が前向きに受け入れられるようになってきましたが、それでもまだ支援を必要としている子どもはたくさんいます。
私自身も3人の子どもの母親で、そのうち一人は学校に行けなかった時期がありました。不登校の子を持つ保護者としての経験を通じて、ちょっとした言葉や出来事が保護者の心にどれほど大きな影響を与えるか身をもって知りました。欠席の電話ひとつでも、とても辛く感じることがあるものです。その経験から、教師としての視点も大きく変わり、「子どもは必ず成長する。時間がかかっても前に進む。」という確信を持てるようになりました。
我が家の子ども達は、現在高校・中学・小学校に通っており、それぞれ部活や趣味が違います。真ん中の子はかつて不登校でしたが、スポーツを続けて全国大会にも出場しました。その経験から、たとえ学校に行かないことを選んだ時期があったとしても、自分の興味あることを見つけて輝くこともできるのだ、という実感を得ることができました。
– 最後に、この記事を読んでくださった皆さんへのメッセージをお願いします。
まずは保護者の皆さんに、「お子さんが学校に行っていなくても大丈夫ですよ」と伝えたいです。お子さんのことも心配かと思いますが、親御さんご自身が元気でいることが何より大切です。そのための支援も続けていきたいと思っています。
もしも今、「うちの子はどうしたらいいだろう」と悩んでいらっしゃるならば、気軽に見学や相談に来てください。「相談するほどでは・・・」と感じていらしても構いません。一緒にお話するうちに、きっと未来への可能性が見えてくると思います。子どもたちは、必ず成長します。100%そう言えます。

【取材を終えて】
山本さんのお話を伺って、関わるすべての子どもたちを包み込むような温かさと力強さを併せ持ち、まるで「みんなのお母さん」のような存在だと感じました。開校以来、長い年月にわたって地域と深く関わり続けてこられたのも、フリースクール・Sを運営する皆さんの熱意と温かいまなざしがあってこそだと思います。
もし今、「どうしたらいいのだろう」と悩んでいる保護者の方がいたら、どうか気軽に相談してみてください。子どもたちは必ず成長すると信じてその成長を見守り支えるための場所と大人たちが、ここにはいます。



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